行動分析学とは
行動分析学とは「人の行動の原因を科学的に研究し、問題行動の改善や望ましい行動の習慣化を可能にする、スキナーにより確立された心理学」です。
行動分析学でいう「行動」とは何か?
行動分析学でいう「行動」とは「死人には出来ないこと」と定義します。つまり手足を動かしたりする行動だけでなく、ものを考えたり推論したり、他人を思いやったり、怒ったり悲しんだりすることも「行動」ととらえることが出来ます。
逆に、「動かない」とか「会議で発言しない」といった非行動や「叱られる」「ほめられる」といった受け身は行動とは考えません。
行動=死人には出来ないこと
わかりやすいですね(笑)
行動分析学では「行動の真の原因は行動の直後にある」と考えます。
行動はその直後の結果によって、今後も繰り返されるのか、それともやらなくなるのかが制御されると考えます。
人はなぜ仕事をするのか?
自己実現のため? 昇進のため? 給料を獲得するため?
行動の直後にその原因を求める行動分析学の立場では、そのいずれも「人が仕事をする」原因とは考えません。
行動はその直後の結果によって制御される。
この「直後」とは行動分析学では目安として「60秒ルール」として、行動から60秒以内に起こらない結果はほとんど意味がないと考えています。
仕事をしてから60秒以内に自己実現ができたり、昇進したり、給料がもらえたりというのは考えにくいですね。従って自己実現や昇進や給料は「仕事をする」ことの動機づけとして、直接の原因とはなりえないと考えるわけです。
行動随伴性
行動分析学では行動の原因を分析する枠組みを「行動随伴性」と呼び、行動とその直後の状況の変化との関係を示します。
この行動随伴性と、行動を強化または弱化させる「好子」「嫌子」の出現と消失の組み合わせで、行動の原因を明らかにしていくのが行動分析学です。
好子の出現 → 行動の強化(繰り返される)
好子の消失 → 行動の弱化(やめる)
嫌子の出現 → 行動の弱化(やめる)
嫌子の消失 → 行動の強化(繰り返される)
この4つのパターンを「4つの基本随伴性」と呼び、行動分析学による行動分析の基礎となります。
相手が反応していない→話しかける→相手が反応する
話しかけるという行動の前後の変化を、行動随伴性という枠組みで考えるわけです。
この行動随伴性と、行動を強化または弱化させる「好子」「嫌子」の出現と消失の組み合わせで、行動の原因を明らかにしていくのが行動分析学でしたね。
好子の出現 → 行動の強化(繰り返される)
好子の消失 → 行動の弱化(やめる)
嫌子の出現 → 行動の弱化(やめる)
嫌子の消失 → 行動の強化(繰り返される)
※行動の直前から直後の状況の変化によって、行動が繰り返されるようになることを「強化」、抑制されるようになることを「弱化」といいます。
好子と嫌子
好子とは
好子とは「行動の直後に出現すると行動を増やす刺激や出来事」のことです。ちなみに好子は「こうし」と読みます。「よしこ」ではありません(笑)
話しかけると「うん、うん。そうなんだ。○○なんだね。それで?」など、承認や称賛してもらうと、すごく話しやすくなりますね。この肯定的な反応が「話しかける」という行動を強化している好子です。
話しかけるという場面では、NLPでいうところのバックトラッキングと通じますね。
【 好子出現の強化 】
行動の直後に好子が出現すると行動は増加する(強化される)
行動の直後に好子が出現すると、その行動は強化され、繰り返されます。
例えば、会議などの場であれば、発言があるたびにリアクションを返す。そして、前向きな発言に対しては、必ず満面の笑顔と称賛の言葉でリアクションする。
真剣な表情(無表情)→前向きな発言→明るい笑顔とポジティブなリアクション
この繰り返しで、会議は前向きな発言が増加し、ポジティブな雰囲気を作り出すことが出来るようになります。
あなたが他人に、前向きな行動を促したいのであれば、前向きな行動に対して意識的に肯定的なリアクションをとってみてください。ここで注意していただきたいのは前向きな行動をとっていないときに否定的なリアクションを取らないことです。
否定的なリアクションは嫌子の出現となり行動そのものを弱化させてしまいます。
その行動をやめさせたいのであれば、それも良いのですが、前向きな行動を引き出すにはまず、行動をしてもらうことが必要になります。いくつかの行動のなかで、望ましい行動に対してだけ肯定的なリアクションをとる。ここではそれだけ押さえてください。(嫌子についてはこの後で説明します)
【 好子消失の弱化 】
行動の直後に好子が消失すると行動は抑制される(弱化される)
先ほど「前向きな行動をとっていないときに否定的なリアクションを取らない。」と言いました。
ではそのような時にはどうしたらよいでしょうか?
明るい笑顔とポジティブなリアクションを取らない。
これだけです。
行動随伴性で見るとこのようになります。
真剣な表情(無表情)→前向きではない行動→真剣な表情(無表情)
前向きな行動を強化する好子を消失させる。
「笑顔とポジティブなリアクション」から「笑顔なし、ポジティブなリアクションなし」に状況を変化させる。
その結果、「前向きでない行動」は抑制されるということです。(「うん」とか、「なるほど」といった相槌をうつリアクションはとってください。)
好子の出現と好子の消失。
この2つを知って使うだけでも様々な場面で役に立てることが出来そうですね。
嫌子とは
では次に、好子と対をなす、嫌子についてお伝えします。
行動分析学では行動の前後の変化を行動随伴性という枠組みでとらえ、行動を強化または弱化させる「好子」と「嫌子」の出現と消失の組み合わせでその原因を考えます。
好子とは「行動の直後に出現すると行動を増やす刺激や出来事」のことでしたね。
では、好子と対をなす、「嫌子」とはどのようなものでしょうか。
※「嫌子」は「けんし」と読みます。
嫌子とは「行動の直後に出現すると行動を減らす刺激や出来事」のことです。
上司が帰らないと部下は帰りにくい。よく聞く職場での問題ですね。定時になって仕事が終わって帰宅しようとすると「おぉ、早いな」と上司が不機嫌そうに声をかける。結果、その日にやる必要もない仕事をダラダラとやり残業することになる。
不機嫌そうな声で声をかけることが「定時退社する」という行動を抑制し、弱化させてしまっているということです。
【 嫌子出現の弱化 】
行動の直後に嫌子が出現すると行動は減少する(弱化される)
行動の直後に嫌子が出現すると、その行動は抑制され、減少します。
会議の場で部下が発言をするたびに否定的な発言を上司がすれば、その発言が嫌子となり、部下の発言そのものを弱化してしまいます。たとえ、部下の発言が好ましくないものであっても、議論を活発化させたいのであれば、嫌子となるリアクションは取らず、無表情で聞き流すくらいの反応をしたほうが望ましいのです。
そして、少しでも前向きな発言が出たときには「明るい笑顔とポジティブなリアクション」をとることで好子出現の強化を促し、会議の場の空気を前向きで明るいものに変えていくことが出来るようになります。
【嫌子消失の強化】
行動の直後に嫌子が消失すると行動は増加する(強化される)
上司や先輩から説教されると悪いと思っていなくても、とりあえず「すみませんでした」と謝ってしまうこてはよくあることです。「すみませんでした」と謝る行動が強化されているわけです。
反論や議論をすれば説教がエスカレートするので、とりあえず謝ってしまえば、その場はいったん収まり、説教から解放されます。
この「説教から解放される」という嫌子の消失が、とりあえず謝るという行動を強化するのです。
説教される→とりあえず謝る→説教から解放される
嫌子と好子の出現と消失。
行動分析学を活用する際には、嫌子よりも好子を使うことをお勧めします。
嫌子を使う行動の抑制は多くの問題があると言われています。
にも関わらず、私たちは部下に対して、家族に対して、友人に対して、嫌子を使って相手をコントロールしようとし続けています。
嫌子を使うことの問題点として主なものは次の5つです。
1.嫌子出現を繰り返すと耐性がつく。
2.嫌子を与える人間を避けるようになる。
3.行動が抑制され、新しい行動が生み出されにくくなる。
4.適切な行動を何も教えていない。
5.一時的な効果しかない
好子と嫌子の特性を理解して、状況に応じて活用することが出来れば、人生はもっと豊かになるのだと思います。
私たちは相手をコントロールしているつもりでも、好子と嫌子の出現と消失によって、知らぬうちにコントロールされていると知ることが、スタートラインになるのです。