現代社会において、私たちは日々様々な形で他者の感情に触れています。SNSを通じて世界中の出来事を知り、家族や友人の悩みに耳を傾け、時には職務として他者の苦痛に向き合うことも。そんな中で最近注目されているのが“共感疲労”という現象です。今回は、この“共感疲労”について詳しく解説していきたいと思います。

┃共感疲労とは何か
共感疲労は、他者の苦しみや痛みに深く共感することで生じる心身の疲労状態を指します。医療従事者やカウンセラーなどの対人援助職に多く見られる現象として知られていましたが、近年ではSNSの普及により、一般の人々にも広く見られるようになってきました。
特筆すべきは、これが単なる疲れとは異なるという点です。共感疲労は、他者への思いやりや共感能力が高いがゆえに生じる特殊な疲労状態なのです。
┃共感疲労はなぜ起こるのか
1. つらい話や嫌な話を聞きすぎる
人の悩みや苦しみに耳を傾けることは大切な行為です。しかし、そうした話を継続的に聞くことで、聞き手の心も知らず知らずのうちに重荷を背負っていきます。特に、深刻な内容や解決が難しい問題の場合、その影響は大きくなります。
2. ニュースやSNSでの情報過多
現代では、スマートフォンを開けば世界中の出来事が瞬時に届きます。自然災害、戦争、事故、犯罪など、悲惨なニュースに触れる機会が増えることで、知らず知らずのうちに心が疲弊していきます。
3. 身近な人の不幸への対応
家族や友人など、親しい人が困難な状況に陥った時、私たちは強く心を揺さぶられます。相手を助けたい、支えたいという気持ちが強いほど、その状況に深く巻き込まれ、自身も消耗してしまうことがあります。
4. 専門職としての関わり
カウンセラーや医療従事者など、職業として他者の苦痛に向き合う立場の人々は、より深刻な共感疲労のリスクを抱えています。専門性と使命感ゆえに、適切な距離感を保つことが難しくなることもあります。
┃共感疲労の症状
共感疲労は、決まった症状だけでなく、様々な形で現れます。
以下にどのような症状が現れるか見てみましょう。
慢性的な疲労感:休んでも回復しない深い疲れ
集中力の低下:普段の業務や日常生活に支障が出る
情緒不安定:些細なことで感情が大きく揺れ動く
無気力:何にも興味が持てない
悲観的な思考:物事の否定的な面ばかりが目につく
身体的な不調:頭痛、胃痛、不眠などの症状
こんな症状が現れたら、共感疲労を疑ってみてください。
┃共感疲労になりやすい人の特徴
共感疲労になりやすい人には以下の4つの特徴がある傾向があります。
1. 感受性が強い人
周囲の感情を敏感に感じ取る能力は、素晴らしい資質です。しかし、その感受性の高さゆえに、他者の苦しみを深く受け止めすぎてしまう傾向があります。そう、他者の苦しみを自分事としてとらえてしまう傾向があるのです。
2. 気を遣いすぎる人
常に周囲への配慮を忘れない人は、他者のニーズを優先するあまり、自分自身のケアを後回しにしがちです。過度な自己犠牲の精神を持っている傾向がみられます。
3. 使命感が強い人
「人の役に立ちたい」「人を助けたい」という強い使命感は、時として自身の限界を超えた努力につながることがあります。
4. トラウマ経験がある人
強い感情を伴う過去のつらい経験は、他者の苦しみに敏感に反応する要因となることがあります。自身の傷が癒えていない状態のままで、他者の痛みに向き合うことは、より大きな負担となります。
┃共感疲労と関連する概念
1. 二次的外傷性ストレス
他者のトラウマ体験を間接的に知ることで生じるストレス反応です。支援者が被支援者の体験を追体験するように感じ、同様の症状を示すことがあります。 二次受傷と同義で扱われることもあります。
2. 二次受傷
支援活動を通じて、支援者自身が心理的な傷つきを経験する現象です。自らは体験していなくても、被支援者の体験した出来事の重さに圧倒される形で生じます。
3. 外傷性逆転移
支援者が被支援者をケアしていく過程で、支援者の考えを被支援者に向けてしまうことです。多くの場合はケアをする人がケアを受ける人に同情や共感の感情を受け自身と重ね合わせることで発生します。
┃共感疲労を防ぐために
1. 自分だけの時間を大切にする
他者のケアに携わる時間が多い人ほど、自分自身をケアする時間が必要です。趣味や休息の時間を意識的に確保しましょう。
2. 自分の感情を他者と共有する
自分の気持ちを信頼できる人に話すことで、心の負担を軽減できます。専門家に相談することも有効な方法です。吐きだすことで心にスペースを作るイメージです。
3. デジタルデトックスを実践する
常にネガティブな情報に触れている状態は、心の健康を損ないます。SNSやニュースはネガティブな情報が溢れています。定期的にSNSやニュースから離れる時間を作りましょう。
4. ポジティブな面に目を向ける
日々の生活の中で感謝できることや良かったことを意識的に記録することで、心のバランスを保つことができます。一日の終わりにその日あった良かったこと、感謝出来ることを3つ書き出す“スリーグッドシングス”なども有効です。
5. リラクセーション技法を活用する
瞑想やヨガ、深呼吸などのリラックス法は、心身の緊張を和らげる効果があります。頑張る必要のない、自分に合った方法を見つけることが大切です。
┃共感疲労に陥ったときの対処法
共感疲労はカウンセラーなどの専門家に限らず、誰にでも起こる症状です。
共感疲労の症状が出たときは、以下の対象法を参考にしてみてください。
1. 専門家に相談する
症状が深刻な場合は、躊躇せず医療機関を受診しましょう。早期の対応が回復への近道となります。
2. カウンセリングを利用する
専門家のサポートを受けることで、自分の状態を客観的に理解し、適切な対処法を見つけることができます。
3. スーパービジョンを受ける
同じ悩みを持つ者同士、グループで経験豊富な指導者からの助言を受け、ワークを行うことで、より健全な支援の在り方を学びや気付きを得ることができます。心の負担も軽くなる可能性が高まります。
┃最後に
共感疲労は、決して恥ずべき状態ではありません。
むしろ、他者への深い思いやりの表れと言えるでしょう。
しかし、自分自身をケアすることを怠れば、継続的な支援や関わりは難しくなります。
他者を思いやる心を持ち続けるためにも、まずは自分自身を大切にすること。
それが、結果として周りの人々への最高の支援となるのです。
共感疲労について理解を深め、適切な予防と対策を行うことで、より健全な形で他者との関わりを続けていくことができるはずです。