NLPの中で最初に体系化された質問のスキル「メタモデル」についてみていきましょう。

■目次
■メタモデルとは
メタモデルとは、言葉で表現した際に削除、歪曲、一般化などで不完全になった情報を、元の完全な情報に戻すための作業や質問方法のことをいいます。
私たちは、日々膨大な情報を外部から受け取り、体験し、それらを自分の中にあるフィルターを通して言葉によって意味づけし、心のプログラムを作り上げています。
NLPでは、言葉にする以前に話し手が持っている完全な情報を深層構造といいます。
しかし、話し手は、深層構造のすべてを言葉にできるわけではありません。
実際の言葉の中には情報の削除や歪曲や一般化などの加工がおこなわれます。
この点を理解せずに相手の話を聞いていると、すれ違いや誤解が生じ、ミスコミュニケーションを引き起こす原因となってしまいます。
ましてや、聞き手が勝手な意味づけをしてしまうと、話がどんどんおかしな方向に向かってしまい、大きなトラブルになってしまったり、不適切な対応をしてしまったりすることもあります。
ちょっと分かりにくいですね。
具体的に例を挙げてみましょう。

最近会社でみんなから嫌わられているんですよ...。
だから会社に行きたくなくて…。

なるほど。会社でみんなから嫌われているですね。
(大変だろうな…。会社で一人ぼっちなんだろう。きっと仲間外れにされたり、嫌味を言われたりして傷ついているんだろうな。かわいそうに。)
こんな風に相手の言っていることを勝手に解釈してしまうと、おかしな方向に会話が進んでしまうかも知れない。相手も思い込みや思考停止状態から抜け出せないどころか、状況が悪化してしまうかもしれない。というのがメタモデルの考え方です。
話し手は全ての情報を話しているわけではありません。
ですので、聞き手は相手の中にある情報を丁寧に引き出し、削除、歪曲、一般化などで抽象化され、不完全になった話し手の情報を、元の完全な情報に戻し、思い込みに気づいてもらったり、思考停止状態から抜け出してもらったりする必要があるわけです。
先の例でいうと、こんな風に質問するのが良いとされています。

最近会社でみんなから嫌わられているんですよ...。
だから会社に行きたいくなくて…。

なるほど。会社でみんなから嫌われているですね。
みんなって具体的には誰なの?
みんなに嫌われてるって具体的にはどういうことなの?
なるべく具体的に相手の言っていること、その中身について知りたいという気持ちでコミュニケーションをとっていきましょうということが、NLPが教えてくれている重要な考え方の一つです。
そのための質問の方法がメタモデルです。
メタモデルとは、加工され抽象化された情報を、深層構造にあったときに近づける質問なのです。
■私たちが使う心のフィルター
メタモデルの質問にはどんな質問があるのか、その具体的なパターンを見ていく前に、私達それぞれが持っている、その人特有のフィルターの存在についてお伝えします。
このフィルターには円滑なコミュニケーションに役立つ効果もあれば、誤解や思い込みを生み出すミスコミュニケーションの要因もあります。
■心のフィルターの役立つ効果
日常で会話をするとき、私たちは、自分の中にある全ての情報を伝えているわけではありません。
話しをするときに、思い浮かんだ表現しやすい言葉をつかって、会話をしようとします。言いたいように言うということですね。
この、言いたいように言うために使っているのが心のフィルターです。
心のフィルターには、脳神経学的なものや社会的規範や自分の価値観などがありますが、普段意識されることはありません。無意識のフィルターです。
例えば、あなたが休日にキャンプに行って、友達に「キャンプに行ったんだ」と話したとします。その時、実際にはいろいろなことを見たり、聞いたり、感じたりしながら体験しているのですが、細かなことを言っていては会話が成立しないので、さまざまな情報をそぎ落として話をしますよね。
具体的にいえば、
・当日は良く晴れた日で
・朝6時に起きて
・朝食は車の中で食べて
・車で高速道路を利用して
・妻と子供、家族3人で出かけて
・キャンプ場まで3時間かかって……。
なんて細かな話をすることはないはずですね。これでは会話が成り立ちません。
ですから、会話を成立させるために、様々な情報を整理する効果が、心のフィルターにはあります。
■心のフィルターの弊害
さまざまな情報を効率よく整理し、コミュニケーションを成立してくれる心のフィルターですが、一方で、必要な情報が削除されたり、歪曲されたりすることで、心のフィルターが思い込みや誤解を作り出す原因になることもあります。
例を挙げると
仕事で「この商品はお客様からの評価が悪い」「お客様が言っている」といった会話がされることがありますね。
この場合、すべてのお客様が言っているのではなく、自分の担当するお客様数社からの評価やフィードバックを、あたかも全てのお客様の意見であるかのように伝えてしまっている可能性があります。
似た言い方で「みんなが言っている」「みんながやっている」「みんな持っている」などがありますね。
この言い回しは、自分の意見を聞いて欲しいときに無意識的に使われることが多く、皆が同じことを言ったり、やったりしているように聞こえるのですが、実際にはそういったことケースはほとんどありません。
ほとんど場合、「みんな」は、その人が重要だなと思っている数人を指している場合が多いのです。
子どもがよく使う、「このゲーム、友達みんなもってるんだよ。買ってよ」といった表現なども同じです。実際にはみんなが持っているわけでなく、友達のうちの何人かの場合がほとんどです。
日常に潜む、こういった会話が、ミスコミュンケーションにつながることはもちろんですが、話し手の思い込みや偏見を作り、思考停止状態を生み出す要因になる場合もあります。
「みんな私のことを嫌っている」といった表現がそれで、話し手の思い込みや偏見による「思考停止」状態が生まれていきます。
人は、その人特有の3つの心のフィルターである「削除」「歪曲」「一般化」によって、自ら不安と猜疑心に満ちた「世界観」を生み出してしまうことがあるのです。
■3つの心のフィルターと対応する質問
3つの心のフィルターには、「削除」「歪曲」「一般化」があります。
さらに詳細に分類すると、12項目のパターンに分かれます。
それぞれのパターンと、対応する質問についてみていきましょう。
│削除
会話の中から具体的な情報が削除されているパターンです。
「みんなが私のことを嫌っている」という会話からは、「みんな」が具体的に誰を指しているのかが削除され抽象化されています。
削除に関する5つのパターン
1.指しているものが削除されている表現
【みんなが私のことを嫌っている】
⇒ みんなとは具体的には誰のことなのか削除され抽象化されている。
このパターンへの質問
誰が? いつ? 何が? どこで? どのように?
例)みんなって誰ですか?
2.具体的な行動が削除されている表現
【愛が足りない】
⇒ デートに誘うことなのか、プレゼントをあげることなのか、LINEを送ることなのか、話を聞いてあげることなのか、具体的な行動がわからない。
このパターンへの質問
具体的にどのように? どのようにやればいいの?
例)具体的にどのようにやればいい?
3.比較対象が削除されている表現
【この車は高いね】
⇒ 何と比較して高いと判断しているのか。比較している対象がわからない。
このパターンへの質問
何と比べて?
例)何と比べてそう思うの?
4.評価者や基準が削除されている表現
【あいつは人としてなっていない】
⇒ どのような基準で「なってない」と言っているのか、わからない。
このパターンへの質問
誰が決めた?何を基準に?
例)どのような基準ですか?
5.具体性やプロセスが削除されている表現
【もっと「やりがい」を感じたい】
⇒ やりがいとは具体的にはどのようなものなのかがわからない
このパターンへの質問
誰が、どのように? どのような?
例)「やりがい」って具体的にはどのようなものですか?
│歪曲
十分に確かめることもなく、自分の考えを決めてしまうことです。思い込みに陥り、自ら思考停止状態を作ってしまいます。
歪曲に関する4つのパターン
1.前提が削除されている表現
【最近の若者は、元気がない】
⇒自分たちが若いときは、もっと元気があったという前提が隠されている
このパターンへの質問
何がそう思わせたの? どうしてそう信じたの?
例)どうしてそう思いますか?
2.2つの異なる内容が同じ意味になる表現
【メールの返信がないということは、嫌われているんだ】
⇒ X=Yの表現(XということはYだ)
本来別々の意味を持つ「メールの返信がない(X)」と「嫌われている(Y)」がイコールで結ばれている。
このパターンへの質問
どうしてそう思うの? なぜXがYを意味するの?
例)どうして返信がないことが、嫌われていることになるの?
3.一方が、もう一方の原因になっている表現
【太っているから(X)、異性にモテない(Y)】
⇒ X→Yの表現(XだからY)本来因果関係にない二つのことを原因と結果として結び付けている。
このパターンへの質問
どうしてXがYの原因?
例)どうして、太っていると異性にモテないと思うの?
4.他人の気持ちや考え方をわかっていると決めつけた表現
【あの人は私を嫌っているに違いない】
⇒ 実際には本人から聞いてもいないし、確認もしていないのに、憶測で決めつけている。
このパターンへの質問
どうしてそれがわかるの? どのようにしてそう思うの?
例)どうして嫌いだとわかるの?
│一般化
例外が排除されていたり、一部の状態を全体に拡大して適用したりしているものです。
一般化に関する3つのパターン
1.「できない」という表現
【私にはその仕事はできません】
⇒ やってもいないのにできないと決めつけている
このパターンへの質問
もしできたとしたら? 止めているものは何?
例)できないと、止めているものは何?
2.「べき」「なければならない」「ねばならない」といった表現
例:これまでのやり方を変えるべきではない。
⇒ 思い込みにより他の選択肢が検討されていない。制限がかかった状態。
このパターンへの質問
もし、そうしないとどうなる? もし、そうしたらどうなる?
例)もし変えるとしたら、どのようなことが起こりますか?
3.例外がなく全てがそうであるという表現
【都会の人は冷たい、女性は感情的だ、男は乱暴だ】
⇒ 一部でしかないものを全部に当てはめ置き換えている。
このパターンへの質問
すべて、あらゆる、いつも、誰でも、ひとつも…ない? 決して…ない?
例)都会で親切な人に会ったことはありませんか?
■メタモデルを活用するポイント
│メタモデルは相手の偏見や思い込みを緩めるためのもの。
メタモデルの質問は、やる気を生み出すためのパワフルな質問というわけではありません。
メタモデルをうまく活用するコツは、相手の思い込みや偏見を緩め、選択肢を広げることを目的として意識することです。
そして相手の世界観を尊重することです。
│ラポールが形成されていることが前提
メタモデルを効果的に活用するときは、「ラポール」とよばれる相手との安心感や親近感、また無意識レベルでの信頼ある関係性が必要です。
そのためのテクニックとして、ワンクッション入れて質問するということがあります。
メタモデルの質問の前に、
「なるほど、そう感じて(考えて)いるのですね」
とワンクッション入れてから質問を始めることで、お相手も自分も、余裕をもって話をすることが出来るようになります。
│Why ではなく How を聞く
メタモデルの質問をする時、重要なのは、なぜ(WHY)ではなく、何が起きているのか(HOW)をきくことです。
「なぜ?」という質問は、責められている感覚や問い詰められている感覚を生み出し、「言い訳」を引き出しやすくします。時にはあなたに対する反発や敵意を引き出して、適切なコミュニケーションが生まれにくくな場合もあります。
メタモデルの質問を使う時には、相手の世界観を尊重し、理解しようとする姿勢を持つ意図が必要です。
私たちには、取り入れた情報を言葉で表現しようとするとき、削除、歪曲、一般化といった心のフィルターを使っています。
この3つのフィルターを理解し、適切にコミュニケーションをとるため、または相手の制限され停滞した状態を緩め、選択肢を広げるための質問がメタモデルです。