ミラーリングとは、ラポール(人と人の間にある信頼関係)を形成するNLPのテクニックの一つです。
ミラーリングについて、何となく名前を知っていたり、やり方は知っていても、そのコツや注意点を知らずに実践してしまったり、「やってみたけど効果がなかった」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
ミラーリングの正しいやり方を学び、仕事やプライベートで、相手との信頼関係をいち早く構築することが出来るようになるのであれば、その方法を知りたいですよね。
今回は、心理学的な視点からミラーリングについて、それが何なのか?、具体的にはどのように行うのか?、ミラーリングのコツや注意点などを解説します。
ミラーリングとは何か? 心理学的な意味でのミラーリング
そもそもミラーリング(mirroring)とは何でしょうか?
「鏡映」と訳されるこの概念にはいくつかの視点があります。
1つ目は言葉通りに「鏡に映っているように真似ること」です。根本は心理学の分野で研究される非言語(ノンバーバル)の行動を真似ることです。相手の視覚的・聴覚的な言動を観察して、それを鏡のように真似ることからミラーリングと名付けられています。
これらは単に行動や動作,口癖やしぐさを「模倣」しているという意味のミラーリング(mirroring)です。
2つ目は臨床心理学的な「自己の同一化」「理想化」という意味で用いられることがあります。相手をすばらしい存在だと感じてその人を見る時,私たちはその対象にミラーリング(mirroring)を行っているといわれています。
心理学上の概念としての同一化とは、一言でいうと、優れた性質を持った他者に自分を重ね合わせることによって、自分自身の価値を高めていこうとする心の働きのことです。
今回の記事ではミラーリング(mirroring)を、前者の「単なるしぐさや動作の模倣」として定義づけます。
■ ミラーリングで勘違いしやすいこと
ミラーリングを解説する際には「真似る」という表現が使われます。しかし、「真似る」というのは、あくまで例えで、ミラーリングを実践する際に、相手の一挙手一投足を本当に鏡のようにコピーして真似てしまうことは、猿真似されているような印象を与えかねず、ラポール形成に逆効果です。
以下の解説を読んでいただくにあたって、このことを頭に置いておいていただけると、ミラーリングに対する理解を深めやすいと思いますので、ぜひ覚えておいてください。
■ミラーリングが対象とする非言語(ノンバーバル)の行動
ミラーリングが対象とする非言語(ノンバーバル)の行動には次のようなものがあります。
フィジオロジー NLPでは体の姿勢や動作、また表情といった「動き」をフィジオロジーと呼びます。フィジオロジーで観察することが出来る代表的なものは次のようになります。 ・姿勢 ・ジェスチャー ・表情 ・まばたきの速度 ・呼吸
声 声については、話している内容そのものを繰り返す「バックトラッキング」とは別に、次のような項目が対象となります。 ・トーン(声の高さ) ・テンポ(話すスピード) ・声色(声の調子や話し方) ・大きさ(声のボリューム)
相手の「動作」や「話し方」をよく観察して、模倣することが、ミラーリングの基本です。
この「模倣する」というのがポイントで、合わせに行き同調するマッチングとの違いと考えてください。
■ ミラーリングの心理学的な効果
フィジオロジーや声の傾向(クセ)は、人それぞれ異なります。そして、その傾向(クセ)は、本人の特徴が現れる非常にパーソナルな部分です。
そのパーソナルな部分が「似ている」と思わせることで、相手に自分と共通の事柄があると感じさせ、安心感や親近感を覚える心理効果「同調効果」を発生させて、自分に対して親近感を抱かせることができるのです。
ミラーリングによって「同調効果」を生み出し、自分に対して親近感を抱かせることで、ラポール形成が出来るようになるということです。
ミラーリングは具体的にどのように行うのか?
ミラーリングの基本的なやり方は、大きく2種類に大別されます。その対象は先にご紹介したフィジオロジーと声で、前者に対するミラーリングが「視覚的な動作を真似する」、後者に対するミラーリングが「聴覚的な情報を真似する」となります。
フィジオロジー(視覚)と声(聴覚)それぞれのやり方を、以下で具体的に解説していきます。
┃フィジオロジー(視覚)
■姿勢のミラーリング
背筋が伸びている、前後左右の姿勢の傾きをミラーリングします。足を開いている、閉じている、組んでいる、を対象にします。この時、開いている足をミラーリングするのであれば、その開く角度や幅なども対象にしてください。組んでいる腕を対象にするのなら、どちらの腕が上に来ているのかも対象となります。
■ジェスチャーのミラーリング
話している相手がしているジェスチャーを対象としてミラーリングします。手を挙げる、手を開く、両腕を広げる、飲み物を手にする、ペンを持つ、上着を脱ぐ、といった動きを対象にします。
■表情のミラーリング
口角や目の開き具合などを対象にミラーリングします。相手が笑ったのでこちらも笑うというのではなく、口角の上がり具合や目尻の下がり具合など、客観的な観察により相手の表情の変化に合わせていきます。
■まばたきの速度・頻度のミラーリング
まばたき?そう思うかもしれません。
心理学において、まばたきを指標とした実験的研究の歴史は古く、他者がその発生や変化を観察することが出来る反応であるとされています。まばたきは潜在意識が現れるフィジオロジーと考えられていて、カウンセラーやセラピストは、相手のまばたきを観察し、頻度や速度を対象としてミラーリングします。
■呼吸のミラーリング
呼吸の仕方、リズム、深さなどを対象にミラーリングします。
相手が呼吸しているのは胸なのかお腹なのか?呼吸のリズムは早いのかゆっくりなのか?また、深く呼吸しているのか、浅いのか?こういったところを観察しながらミラーリングしていきます。
┃声(聴覚)
■トーン(声の高さ)のミラーリング
特別に意識しない限り、普段会話をしている時の声のトーン、高い声や低い声などには、その時々の感情や生理的な反応が反映されています。相手の声の高低に合わせて会話を進めることで、同調効果を得いることが出来ます。
■テンポ(話すスピード)のミラーリング
相手の話している声の”早い””遅い””間の取り方”を観察してミラーリングしていきます。特に間の取り方は注意して観察してください。話す速度と合わせて、この”間の取り方”が生理的なテンポを生み出し、そこに合わせていくことで、相手が「気持ちよく話せる」と感じることが出来るようになり、あなたを「話しやすい相手」と受け入れてくれやすくなります。
■声色(声の調子や話し方)のミラーリング
声の調子や口調などを対象にミラーリングします。かすれたような声、情熱的な声、滑らかな印象を与える口調、皮肉屋っぽく聞こえる話し方など。相手の声色を良く観察し、そこに合わせていきます。ただし、物まね芸人のように、相手の声色を対象として模倣する方がいますが、これはかえって逆効果。馬鹿にしてるのか!と相手を怒らしかねませんので注意してください。
■大きさ(声のボリューム)のミラーリング
最も簡単に相手に合わせることが出来るものがこれです。声の大きさには興奮状態や安定した状態などの精神的な状態が反映される傾向があります。声の大きさを相手に合わせることで、「私はあなたと同じことを感じています」ということを非言語で伝えることが出来るようになり、そこに類似性の原則が働き、ラポールが形成されやすくなります。
クロスーオーバーミラーリング
ミラーリングの効果を高めるのに有効な手段として、直接的な真似を避ける「ずらし」のテクニックがあります。
この「ずらし」のテクニックがクロスオーバーミラーリングです。
クロスオーバーミラーリングは相手の特徴をとらえ、完全には真似をせず、部分的、疑似的、時間差的にミラーリングします。
例として、相手が足を組んでいたら、こちらは脚先だけ交差させる。相手の話すテンポに合わせて指先でリズムを取る。相手がパスタを食べたら自分はスープを飲むなどが挙げられます。クロスオーバーミラーリングは真似をする時間や対象をずらすやり方です。
相手に「何となく自分と似ている」と感じさせることができるだけでも、ミラーリングの効果を充分に得ることが出来ます。
ミラーリングをする際の注意点
ミラーリングを効果的に行い、ラポール形成に役立てるための注意点を3つ挙げていきます。
■相手を理解し尊重しようという意識を持つ
ミラーリングはラポール形成のためのテクニックの一つではありますが、相手を操るための小手先のテクニックではありません。
これまで見てきたように、フィジオロジーと声には、その人の潜在的な心身の状態が現れます。つまり、ミラーリングにより、相手の状態を知り、そこに寄り添うことが重要なのです。
ミラーリングは単なるモノマネではありません。相手を理解し尊重するために相手のフィジオロジーや声を模倣することで相手を理解しようとする、その意識が効果的に実践するための一つ目のポイントとなります。
■相手をよく観察する
人の内面は、何らかの形で外側の振る舞いとして現れます。
NLPでは観察することを指して「キャリブレーション」という言葉を使いますが、これは計測するという意味を持っています。
相手の喜怒哀楽が表側に現れた際に、フィジオロジーや声にどのような変化が起きているのか正確にキャリブレーションし、そこに勝手な意味づけは行わず、そのまま模倣することで効果的なミラーリングが可能となります。
■ミラーリングはさりげなく
猿真似のような過剰なミラーリングは、相手に違和感を与えます。「ミラーリングをしている」と思われた途端に、ラポールが形成が失敗に終わります。
ラポール形成に失敗した状態を「ラポールが切れる」という表現をしますが、主体を相手に置かずに、自分目線で行うミラーリングはラポールを切らしてしまいます。
普段の自分とはかけ離れたものは、あえてミラーリングしない。相手が自然と受け取れるようなしぐさや声に絞って、ミラーリングを実践するというくらいの心構えで良いかもしれません。
相手との間にラポールを形成し、相手の心を開き、話を聞いてくれる状態にするためには「さりげなく、相手がそれと気づくことなく、自然と受け取れるように実践する」。これが大切なポイントとなります。
いかがでしたでしょうか。
ミラーリングはラポール形成のためのテクニックの一つです。「相手を真似る」と一言で言われることの多いミラーリングも、一つ一つを見ていくととても奥深い意味がそこにはあります。
相手を理解し、そこに寄り添い、尊重や配慮をもって、ミラーリングを実践してみてください。過剰なミラーリングは禁物です。相手を尊重し、良く観察し、さりげなく実践することが大切です。
その結果、相手との間に急速にラポールが形成され、あなたの説得力や影響力を高めることが出来るようになるのです。
最後までお読み頂きありがとうございました。